どう公開情報から分析し最終評価するか

捏造慰安婦問題の日韓合意事案に係わる、言論人が言及した原稿については、総じて部分的な次元での個別の問題指摘だらけであるという印象を持っている。
残念なのは、最終評価(最善手、やむを得ないもの、ベターな選択、悪手)の特定に至っていないことだ。

拙ブログコメント常連のSuica割さんの方が、産経や正論に登場するお歴々の方々よりも、事態を総括的に捉えているようにみえる。

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http://nihonnococoro.at.webry.info/201601/article_14.html#comment

・国家の関与を業者の運営管理の監督の失敗と明言しなかった事以外は、とくにミスは無いと思ってますし、言い訳不可能な致命的なミスが無い事は良かったと思います。

・この合意は、政治的には、日本優位に挽回可能な合意であろうと思います。

・文章的に完全否定派は不味いと言ってますが、政治的には、過去の精算に合意→韓国からの廃棄→やり直しの循環の一過程にしか過ぎません。

・韓国でひっくり返してやろうという意見が出る時点で、政治的な文章としては、失敗と仮定しても、交渉的な意味では、一時停戦にしか過ぎず、とくに懸念は日本側はしなくて良いと思います。

・安倍政権の今回の合意の狙いは、一時の時間稼ぎと親韓派閥の減少を韓国自身にやらせることではないかと思っています。

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Suica割さんの評価は、外交交渉等経験者の視点からの分析と読める。実際の交渉の舞台裏の推定は、経験がないと書けない。また、こういう指摘を読むと、視野の狭さゆえに完全否定派となった方がいるのではないかと、直感する。
私は、Suica割さんのような評価を書きたいが、現時点では書けない。それは、分析作業者として、最終評価に必要な分析作業が完了したことを証明できないため、そう書くと、予断を以て分析したということになるからだ。(読者の皆様は、どうコメントしようと自由だし、感覚的には、Suica割さんのような評価結果となりそうな気はしている。)

こういう状況なので、本事案、言論界の評価が定まらない場合、局面の変化によっては、政治的混乱が予想される。それもこれも言論界の実力不足が招いたことである。
言論人が、官邸スタッフに実力的に追い付いていないのである。
そうなる背景事情は、憲法で学問の自由が保障されていることと無関係ではないと思っている。学者はやりたくないものはやらなくていい、本当にお気楽な身分である。
また、ともすれば、学者は、書かれている字句の分析に没頭し、交渉当事者が持つ切り札、交渉手順のところまで頭が廻らない傾向にあるようだ。

拙ブログは、年末から、日韓合意、このテーマ一つに絞っている。理由は、国家の一大事だと考えるからだ。
実際、日韓合意について批判的な、ある学者ブログは、テーマのつまみ食い状態にある。

この状態が続く限り、言論界が、ブログ界が、官邸の情報分析力に太刀打ちできるはずはないのである。言論人の誰が、ブログ界の誰が、レトリックスキル満載の安倍談話を予想できたであろうか?
実際、あの八方塞がりの政治状況の中で、「レトリックでかわすという手法」があることを予告した言論人はいたのであろうか?

確かに、官邸側は平静を装っている。しかし、ブログ界は、平静で居られることを担保できる情報をいまだに入手していない。

無条件肯定派でない限り、疑心暗鬼になるのは仕方ないのである。
また、その後の官邸リーク情報も安倍支持者に配慮した次元のものとは思えず、一人一人が分析したものを持ち寄って、最終判断するしかないのではないかと思いつつある。

そこで、本稿では、公開情報から読み解く、その点に的を絞って、ビジネススキル的視点から述べたい。


名うての外交官岡崎久彦は、公開文書からの分析をしきりに語っていた。

「情報・戦略論ノート」(岡崎久彦)にはこういう記述がある。

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36頁
偵察衛星とかスパイとか、情報というと皆さんはそういう話ばかりと思われるんですけれども、実はそんなもんじゃないんです。私の感じでは九割以上、公開情報でわかるんです。
とくに戦前は、日本は孤立していたせいもあって、秘密の情報は少ししかなかった。あのころ言われていたのは、イギリスとドイツとフランスの新聞を毎日読んでいれば、国家間の秘密はないということでした。二十年前ぐらいまでのわれわれの先輩はみんなそういうふうに教わって外交をやっていたわけです。
かつてCIAが調査して、アメリカの新聞に出る記事とか議会における公聴会の記録などの公開情報だけ集めて、どれだけ正確にアメリカの軍事力が評価できるかということを確かめたら、ほとんど全部わかるということだったそうです。トルーマンが、アメリカの秘密情報の九五%は新聞その他の刊行物に発表されていると言ったということです。

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なぜ、岡崎久彦がそう語るのか?

官邸だろうが、外務省の分析官だろうが防衛省の情報収集担当だろうが、総じて、公開情報から分析してきたことを言っているのである。
国家の一大事の事案であればあるほど、そうした。

かくいう私も、仕事上、早稲田雄弁会出身の上司に、そのように仕込まれた。

また、「岡崎久彦の情報戦略のすべて PHP研究所 2002」では、公開情報から、難しいとされてきた共産圏の状況について、その動向を正確に読み切った、英国人情報分析スペシャリストの存在を紹介している。

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51頁
文化革命を予言し、ソ連のチェコ侵入を予言したヴィクター・ゾルザは、決して秘密の情報は読まず、共産圏の公開情報を一日に九時間読んでいました。ですから旅行をすると失われた時間を取り戻すのが大変だと言ってほとんど旅行もせず、また、今までに本を一冊も書いていません。むしろ、専門家に本を書く時間があるはずがないと、本を書く人を軽蔑する風がありました。
一度私は、日本から誰かを弟子入りさせることを考えて、ゾルザ氏の意向を訊いてみたことがありましたが、彼の注文は、英露両語を完全に解し、コンピュータを使用できる人で、かつ出世しない人ということでした。何故だと訊いたらば、外交官は偉くなるとコクテールとデイナーに行くから情報を読むヒマがなくなる。だから折角自分の技術を授けても無駄だとのことで、さすが名人、上手というものの、その考え方の徹底しているのに改めて感心しました。

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ゾルザ氏は、信頼に足る報道記事を読み込んでいたと私は解する。
北朝鮮の動向については、官邸スタッフは、核実験のほかに、あることを予見している、という見方ができるかもしれない。

日本の報道記事については、産経、読売中心でいいのではないかと思っている。
テレビニュース、朝日、毎日については、話半分でいい気がしている。パニックになって何でもかんでも追いかける必要はない。もちろん、客観分析不十分な言論人の情報を追いかける必要もない。

ここで、一人の有名なジャーナリスト、青山繁晴をあげたい。青山繁晴は、官邸リーク情報を伴う暴露モノを扱うことがある。ジャーナリストなので、リーク情報を扱うことは仕方ない。しかし、いつもいつもリーク情報に頼ると、分析が甘くなるばかりか、ババを掴まされることがある。
私が青山繁晴に不満を持っている。時間的制約から手を抜いているのではないかとみている。非営利なら、基本は公開情報分析、裏付けとしてリーク情報等を参照する、はずでであり、公開情報分析よりもリーク情報にウエートを置いていることが気になるのである。確かに、青山繁晴の情報は貴重だ。だが、青山繁晴が忙しすぎてできないなら、誰かが、公開情報から客観的に読み取る作業を続けるしかない。

もちろん、はじめにリーク情報ありき、スクープありきのジャーナリストは、調査・分析そのものをわかっていない。

ここで、外務省関係以外に、帝国陸海軍軍人に公開情報から読み解く、プロフェッショナルが存在していた事実を紹介する。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%BA%84%E5%81%A5%E5%90%89

新庄健吉

対米諜報員
1941年(昭和16年)1月[1]に新庄はアメリカ出張を命ぜられた。新庄の任務は対米諜報である。アメリカの国力・戦力を調査し、来る日米戦争の戦争見通しを立てる事であった。所謂スパイであるが、4月に到着以後非合法な活動は伴わず一貫して公開情報の収集にあたった。公開されている各種統計等の政府資料から資材の備蓄状況等を割出し日本との国力差を数字に示した。諜報が目的である事から駐在武官府等の在米陸軍機関では活動せず、エンパイアステートビル7階の三井物産ニューヨーク支店内に事務所を開いた。勿論身分を三井物産社員と偽装してである。元々アメリカは新庄が調査せずとも世界一の工業生産力を誇っているのは明々白々であったが、調査の結果導き出された数字は重工業分野では日本1に対してアメリカ20、化学工業1対3で、この差を縮める事は不可能とあった。これらの調査結果を参謀本部に報告書として提出するが、渡米から3ヶ月働きづめだった新庄は体調を崩してしまう。1941年10月頃にワシントンにある駐米陸軍武官府に拠点を移すがさらに病状は悪化、11月にワシントン市にあるジョージタウン大学病院に入院する。しかし、12月4日急性肺炎を併発し45歳で没する。



https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9F%E6%9D%BE%E8%AD%B2

実松譲

軍令部第五課

実松在任時の軍令部首脳。二列目右から二人目が第五課長の竹内馨。
実松は軍令部第三部第五課の米国班長に補され海大教官を兼務した。着任当時の第五課は課長を含めた人員が4名、内1名は他の職務との兼任者[18]であり、人員の不足は明らかであった。人事局は士官が不足している状況から正規士官の配員に難色を示しており、短期現役士官や予備士官によって充員が行われる。人員拡充は引き続き行われ、1944年(昭和19年)7月には士官以外の者を含め54名となっている。こうして対米情報作業が本格化したのはすでにサイパンの戦いが終結する時期で、実松は「海軍は腰だめで戦争した」とその情報軽視を批判している。第五課で実松らが行った対米情報作業は捕虜から情報を得ることも方法としていたが、主として統計的手法を用いて米側の企図を判断するものであった[19]。基礎となる情報は、米国のラジオ放送や中立国経由で入手したものであり、これを解析して第五課が提供する対米情報は連合艦隊司令部の作戦に直接役立っていた[20]。 実松は米軍の主攻勢方面も的確に言い当てている。主攻勢方面については3つの可能性が考えられていたが、実松は以下のように主張していたのである。日米の決戦であったマリアナ沖海戦は中部太平洋で生起し、軍令部作戦課員であった源田實は実松のこの判断を「さすがに的確」であったと述べている[21][* 4]。

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新庄健吉については、「昭和史発掘―開戦通告はなぜ遅れたか」(斎藤充功)にて解説が読める。この本、本題についての記述は大したことはないが、新庄健吉について書かれた部分だけは、読む価値はあると思う。

最後に、これまで読んだ中で、公開情報から読み解いた中で、秀逸な情報分析に係わる事例紹介が含まれる名著、公開情報分析を得意とする専門家たちを紹介し、本稿を終える。

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国際情報の読み方 加藤千幸(外交官)
情報フィールドノート 小川和久
情報フィールドノート Part2 小川和久
大本営参謀の情報戦記 堀栄三
名著で学ぶインテリジェンス 情報史研究会

江畑 謙介
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E7%95%91%E8%AC%99%E4%BB%8B

兵頭二十八
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B5%E9%A0%AD%E4%BA%8C%E5%8D%81%E5%85%AB

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